ピュグマリオン
ピュグマリオンは凄腕の彫刻家。女性を忌み嫌い生涯結婚しないと誓った。
彼は自分の粋を凝らし象牙の女性像を彫り上げた。それはまるで生きているかのようでありピュグマリオンはその像に恋をした。
彼の恋愛感情は日に日に高まり、彫像に触れてみたり、生きていれば喜ぶであろう小鳥や綺麗な石や花や飾り玉や琥珀を贈ったりもした。
さらに服を買い求め着せたり、指に指輪をはめたり、首にネックレスをかけたり、ピアスをしたりとお洒落をさせた。
最終的に彫像を寝椅子に寝かせ、頭が痛くないように枕をあてがった。
キュプロス島のアプロディテの祭りは毎年盛大なもので、ピュグマリオンはその祭りに出て務めを果たした後、祭壇に行き「私の象牙の乙女のような女をくれ」と祈りを捧げた。祈りが終わるとそれに呼応するかのように祭壇の炎から火の玉が3つあがった。
ピュグマリオンは家に帰るといつものように愛しの彫像の元へ歩み寄った。
そして接吻をすると、驚いたことに温かい。ピュグマリオンは確かめるようにもう一度接吻をすると今度は間違いないと手足をかき抱いた。
胸中は不審や驚きや喜びや気がおかしくなったのではという心配など様々な感情がやってきては消えた。その間にもピュグマリオンはその体の柔らかさと肌のはりを確かめていた。
少し冷静さを取り戻すとピュグマリオンはアプロディテに感謝をささげた。
そしてこの事実を受け入れながらもう一度接吻をすると、その目が開き顔を赤らめた。そして彼女の目はピュグマリオンを捉えた。
彼らの間にはパポスという息子を授かったという。
キュプロスの町に彼の名前が残っている。
【出典】『ギリシア神話』
【関連用語】アプロディテ(アフロディーテ)、キュプロス、ピグマリオン効果
【補足】
アプロディテは他にアフロディーテやアフロディテとも呼ばれる。ローマ神話ではビーナス。愛と美と豊穣の神。
心理学の用語にピグマリオン効果というものがある。
この実験結果を報告したローゼンタールの名を取ってローゼンタール効果とも呼ばれる。
ある小学校の1年生から6年生の知能検査を実施した上で、各学年の担任にこの子は知能が高いと言って全体の2割の生徒の名簿を渡した。しかしながら実際にはランダムに選んだだけで実際の結果とは関係の無い名簿であった。
そして1年後に再び知能検査を実施した。
さて結果はどうなったか?
名簿に載っていた子ども達の成績は他の子どもたちに比べ明らかに成績が良かったという。
つまりこの子はできるんだ、将来性があるんだという気持ちを担任が持っていれば子どもがその期待に応えるということである。一方でこの子はダメだと担任が諦めていれば逆の結果も出ることが予想される。
子どもは思った以上に敏感担任や親の評価を察知している。それは言葉にしなくても態度の端々に現れるものである。ピュグマリオンの場合は相手が彫刻であったのでアプロディテの奇跡が必要であったが、生徒は日々変化する生きた相手である。
子どもに限らず誰かが成功する際にはその傍にその成功を信じる人が存在している。
誰かを真剣に応援するというだけでも何らかの貢献になっているのかもしれない。
他にも音楽を聴いたコウジカビが良いお酒を造るとかそういう話も聞いたこともあるが、それも職人の気持ちや仕草が丁寧になったのではと考えている。つまり誰かを力づけるには自分が元気だったり余裕がないといけない。
そういう意味でピュグマリオンは健康で自信に満ちた男であったのかもしれない。