ペネロペ
スパルタの王族イカリオスの娘。
イタケの王オデュセウスは大勢の競争者を下しペネロペに求婚した。
イカリオスはわが娘が居なくなるのを悲しく思い、何とかここに残るように説得した。
ペネロペはオデュセウスに相談した。オデュセウスは「それを決めるのは父上でもなく、ましてや私でもない。あなたが決めるのだ」と言った。
ペネロペはそれを聞くと何も言わず嫁入りのヴェールを被った。
それを見たイオカステは無理に引き留めようとは思わなかった。別れた後イオカステは貞節の像を立てペネロペを偲んだ。
およそ1年オデュセウスとペネロペは幸せに暮らしていたが、トロイア戦争がはじまりオデュセウスは戦争に赴かねばならなくなった。
ペネロペは1人オデュセウスの帰りを待ったが、待てども暮らせども帰ってこない。
オデュセウスは戦争で死んでしまったのだとか、行方不明だという噂がたつとペネロペに求婚するものも現れ始めた。
ペネロペは舅のラエルテスのために弔い用の被衣を織り上げるまではとても新たな結婚のことなど考えられないと伝えた。彼らはそれに納得しできあがるのを待っていたが一向にそれはできあがらなかった。
というのもペネロペは人目のある昼間はせっせと縫うのだが、夜になるとそれを解いてしまうのだった。
やがて人々は何事も絶えず行っているように見えて、決して完成しないことをペネロペの織物と言うようになったという。
【出典】『ギリシア神話』
【関連用語】オデュセウス、スパルタ、トロイア戦争、イカリオス、バートルビー
【補足】
オデュセウスはオデュッセウスともオデッセイとも呼ばれる英雄。
ホメロスの『オデュッセイア』は彼のトロイア戦争での活躍を描いたもの。
ホメロス版オデュッセウスはカッコいい主人公として描き直されているが、ギリシア神話だと冷静で智謀に長けている印象がある。
ホンダのオデッセイやゲームのスーパーマリオオデッセイなどにも名前が使われている。ちなみにコンピュータゲームで世界最初に成功したと言われるゲーム機本体の名前もオデッセイだった。
ペネロペの織物は日本ではあまり聞かない用語。
似たような話と言えばエンリーケ・ビラ=マタス氏の「バートルビー症候群」だろうか。
作家が自分の書いた文章を書いては、これではいけないと消すのを繰り返し作品がいつまでたってもできあがらなくなるスランプ状態をメルヴィルの小説の登場人物であるバートルビーから「バートルビー症候群」と呼んでいる。
欠けなくなった作家の話を集めた『バートルビーと仲間たち』にエピソードがまとめられている。
元ネタのメルヴィルの作品は光文社古典新訳文庫が入手しやすい。タイトルは『書記バートルビー/漂流』で、何を提案しても「それはしない方が良いと思います」と拒絶するかなりの変人でそのふるまいは世間の常識を超越しており、好奇心をそそられつつも恐怖感も感じる個性的で魅力的なキャラクターなので気になる方はぜひ読んでもらいたい。