渾沌

【内容】

こんとん。

荘子』の応帝王篇に登場する帝の名前およびそれに関わる話。

南を治める帝である儵(しゅく。たちまちの意)と北の海を治める帝である忽(こつ。にわかにの意)、中央を治める帝である渾沌(こんとん。あやなしの意)がいた。

三者が渾沌の治める地で出会った際、混沌は手厚く彼らをもてなした。

両者は世話になったお礼をしようと考える。

「そういえば渾沌には穴がない」ことを思い出した。

不思議なことに渾沌には目も鼻も耳も口もなかったのだった。それでいて見たり聴いたり食べることに不自由はしていなさそうだった。

彼らは「穴を掘ってやろう」と言い、一日に一つずつ渾沌の顔に穴を開けていった。

 

そして七日目、渾沌は死んだ。

 

【出典】『荘子

【関連用語】ミロのヴィーナス(彼女には腕がないがまさにそのことが美しさの理由でもある)

 

【補足】

荘子には一見してもよく分からない話が多いが、その中でも気味が悪く今でも記憶に残っている話。

両者の帝の名前がたちまちやにわかにであることから、計画性なくその場の思い付きで動く存在なのだろうと推測される。

顔がないなら作ってあげようという思い付きから、一日にひとつずつパーツを作っていく。そしてすべての顔のパーツがそろったまさにその日が渾沌の命日になってしまった。

ミロのヴィーナスのように無い腕には無限の想像の余地があるためもてはやされるが、一度腕がついてしまえば数ある凡作に紛れてしまう。

渾沌も顔がないこと自体が、どのような表情かはご想像にお任せしますと言った本質であったのかもしれない。これを二人の理想の顔をうがつことによって奪ってしまったようにも思える。

人間が踏み越えてはならない領域に勢いで突っ込んだ挙句、何か大切なものがなくなっているという警句のように解釈しているが。

これもまた無理に意味をつけてしまうような、思い過ごしかもしれない。