クワス
【内容】
クリプキの『ウィトゲンシュタインのパラドックス』に登場する計算方法。
あなたと友人と足し算をしていたとしよう。
最初は問題なく進むのだが、ある時から両者間で答えが合わなくなってしまう。
間違いを指摘すると友人が足す数か、足される数の片方が57を超えている場合は無条件に答えは5になるクワスという足し算とは別の手法を用いていたことが判明する。
だから、
56+56=112になるのにも関わらず、
1+57=5になってしまうのである。
このクワスは一見すると奇妙だが、なぜ片方が57以上のとき答えを5にしてはいけないかを足し算使用者が説明するのは困難である。
同様に自分たちが足し算の正しさを説明することも困難になる。
この時点で規則には正当性がないことが導き出される。
またこのクワスが発生する数字が57よりも非常に大きいものであった場合、私たちは普通に足し算をしている人間とクワスをしている人間を判別することができない可能性もある。
果たして規則に確実性はあるのかについてクリプキは疑問を投げかけている。
【出典】『ウィトゲンシュタインのパラドックス』
【関連用語】ウィトゲンシュタイン、言語ゲーム、懐疑論
【補足】
哲学は時として日常では思いつきもしないような、なぜそんなことを考えているのかと思わず首をかしげてしまうようなことを真剣に考えることがある。というか大抵はそういうことに頭を使っている。
クリプキは提示する例が思考実験としてもとっつきやすいのもあって非常に面白い。
何が真で何が偽かを巡る言葉の定義に挑んだ人々の話を聞いていると、実に興味深い。
それに加えて多くの人が何気なく使っている言葉は、こんな議論などにもびくともせず何とどっしりとしていることかと思いをはせざるを得ない。
私はまだ論理哲学や言語ゲームは不勉強であるが、実に興味をそそられる分野あることは間違いない。
『ウィトゲンシュタインのパラドックス』は最近ちくま学芸文庫で出たので、入手しやすくなった。